あをぎりの小さなおはなし

つれづれなるままにその日暮らし…

【ねこばなし】ハナのこと

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ハナをもらってきたのは父でした。
私が中学生二年生の時、会社の人から無理やり押し付けられたというその仔猫は、真っ白な体をしていて、鼻のまわりだけほんのり茶色をしたとてもかわいらしい女の子でした。


実家に帰ると今でも父とハナのことははっきりと思い出します。
実家は郊外にある古い一軒屋で、庭に面した居間には大きな木のテーブルがあり、休みの日には着物を着た父が、どっかりと胡坐をかいて座り込んで新聞を読んでいます。
その足の間にはかならずハナがいるのです。ハナは父に一番なついていました。

ハナはお風呂は嫌いでしたがなぜか風呂場は好きらしく、父が風呂に入っていると中へ入れてくれとせがむのです。
「父さん。ハナが入りたがってるけど?」
「ああ、入れてやれ」
風呂場の入り口の戸を少し開けてやると、ハナはするりと中へ入ってゆきます。
私が入浴している時に、ハナは入ってきたことはないのですが、父から聞いた話では風呂蓋の指定席に前足を組んで座り込み、じっと目を閉じて気持ちよさそうにしているのだそうです。
「体が洗いにくくて仕方がない」
そうボヤきながらも、なんだか嬉しそうにしている父の姿も今では良い思い出です。

 

父が亡くなったのは、私が高校に入ってからでした。
あれだけ丈夫そうだった父が、会社の健康診断で精密検査が必要となり、検査入院することになりました。
入院する前日に、ハナは普段はもらえないマグロの刺身をもらい、父に頭を撫でてもらっていました。
「すぐ帰ってくるからな」
その半年後、父は一度も家に帰ることなくガンでこの世を去りました。

自宅に父を連れ帰り、通夜の準備も済ませ、弔問も一通り済んで母と一息ついていた時、ふとハナが鳴いている声が聞こえました。
私も母も、それまで忙しさのあまり、ハナのことはすっかり忘れていたのですが、エサもやらずにお腹でも空いたのだろうかと、声のする方に行ってみると、ハナは風呂場の戸を開けてくれとせがんでいるのです。
風呂場の電気をつけて、私が戸を開けてやると、かつてそうだったのでしょう、風呂蓋の上にちょこんと座り、だれも居ないを前方を見つめて、にゃーんと一声鳴いていました。
「お父さんが。…きっとハナとお風呂に入っているのね」
後から来た、涙ながらの母の言葉に、それまで忘れようとしていた感情が一気にこみ上げ、母も私も肩を抱いて泣いていました。

 

あれからもう10年が経ちます。
その後のハナは、仏壇前の座布団を特等席として過ごし、時折母が父にお線香をあげ、鳴らす鐘の音ににゃーと鳴いていたそうです。
老衰で亡くなったその日は折りしも父の命日で、せがむハナに「命日だから、また父が来たのだろう」と風呂場の戸を開けてやると、翌朝にはじっと目を閉じたまま永眠していたそうです。


仏壇には、父の位牌と並んでハナの写真が昨年から飾られています。
私は、仏壇にお線香を上げると、そっと両手をあわせました。
「ハナ。ありがとね。父さんをよろしく。…父さん、ハナと仲良くね」
ひとしきり拝んで顔を上げると、後ろのほうからドタドタと騒がしい足音が聞こえてきます。
「ほら、あゆみちゃんもこっち来て、おじいちゃんにチーンして手をあわせないと」
「ねー、おかあさん。後でシロと遊んでいい?」
「ちゃんとおじいちゃんにご挨拶出来たらね」

今、母の元には先月もらってきたという真っ白な仔猫がいるそうです。
ひさしぶりに実家へ遊びにきた私へ
「シロとはね、ハナとお父さんくらいもう仲がいいのよ」
うれしそうに言う母に、なんだか私もすこしうれしくなりました。
ダンナも連れて、また次の連休には実家に遊びにこよーかな。

シロをだっこしようと追い掛け回している娘を眺めながら、そんな事を考えてしまいました。

 

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いっしょがいいね ビーンズぬいぐるみ(2S) 高さ15cm 白猫

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