あをぎりの小さなおはなし

つれづれなるままにその日暮らし…

【わんこばなし】ほらふき犬ライア

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その子犬はいつも 暗闇のなかにいました
高い高いビルが たくさん たくさんたちならび
そこには まるで光がとどかないのです
子犬は その暗闇のなかを おなかをすかせて とぼとぼ歩いていました

レストランのごみばこからみつけた エビフライも 
年上の大きな黒い犬に とられてしまったのです 
子犬は ドロに汚れた顔を 星もなにも見えない空に向けました

「おや?あの光は 何だろう」

暗闇の中に ぽつんと光が……窓です
その窓から 暖かい光が もれていたのでした

子犬は 窓にむかって歩いていくと 下にあったごみばこに ひょいっと飛び乗って
窓の中をのぞきこみました
明るい部屋のなかには まんなかに丸いじゅうたんがしいてあって
ちょっと向こうに 小さなテーブルとベッドが置いてありました
そのテーブルの上には お皿に入ったスープが おいしそうなゆげをたてています
ほんの少し空いた窓から いいにおいも流れてきました
子犬のおなかが ぐぅ と鳴ります
昨日から なにも食べていなかったからです

子犬は おいしそうなにおいに さそわれるように 
窓のすきまから 部屋の中に ぴょんととびおりると
まるいじゅうたんの上をあるいて テーブルのそばまで歩いていきました

子犬は やっとスープのそばまでこれたのに 少し悲しそうなかおになります
窓からみえた 小さなテーブルは そばまできてみると 
子犬よりも高くて大きくて スープのお皿は その上にのっていたからです

子犬は くるしくなるほど 背伸びをしてみたり
テーブルの下に もぐりこんだり してみましたが 
やっぱり スープには手がとどきませんでした
子犬のおなかが もういちど ぐぅ と大きく鳴ります

そのとき 女の子の声が だれもいないと思っていたベッドのほうから きこえてきたのです
「だぁれ?だれかいるの?」

子犬は びっくりして テーブルの下でとびあがり
「お おいら 別に スープを盗みぐいしようと 思ったわけじゃないぞ」
と おもわずさけんでしまいました

「スープ?スープがほしいの?」
もういちど 女の子の声がきこえました

女の子の その声に 子犬はもういちどとびあがります
いままで人間は 「さむいよ」 とか 「おなかがすいたよ」 と
どんなに 子犬がはなしかけても まったくわかってくれなかったからです

子犬はびっくりして女の子に言いました
「おまえ、おいらのことばがわかるのかい?」
「ええ もちろんよ、あたなはだぁれ?」
女の子はたずねました
「どうしてまどから入ってきたの?」
子犬はテーブルの下からひょっこり かおを出しました
「おいら ライアっていうんだ」

みると ベッドのうえには パジャマをきたかわいい女の子がすわっていて
ライアのほうを じっとみていました
「ライア… とってもいいなまえね あたしの名前はミキっていうの」
「ライアは どこからきたの? どうして窓からはいってきたの?」
ミキは もういちど ライアにたずねました

「おっと この先を聞きたいならテーブルの上のスープをくれなきゃだめだな」
「おいらの話は タダじゃ聞かせられないね」
相手がやさしそうな 女の子だとわかって ちょっぴり安心したのか
子犬のライアは むねをはねをはって いいました
ミキは にっこりわらうと こくりとうなずきました
おいしそうなスープのお皿が やっとライアの目の前におかれます
ライアは あっというまに スープをたいらげたのでした

「どんな話が聞きたいんだ?」
と おなかがいっぱいになって すっかりまんぞくした ライアが聞くと
「外のお話」
と ミキはこたえました

ミキは ずっとその部屋から出たことがなかったのです
ベッドからもおりることが できなかったのです
ミキのベッドから見えるまどのけしきは 空だけでした

「おれさまは おおぜいのけらいをもつ 犬王国の王子様さ!」
と ライアは もういちど むねをはっていいました

「おいらは 王子様だから いろんなところから頼まれて 人助けをするのが仕事なのさ このあいだも…」
あまりにも ミキが楽しそうに聞いてくれるので ライアはたくさんたくさん作り話をして 
ミキの喜びそうなことを 話してあげました

高い高い山にすむ こわい竜と戦った話
森の奥にいる 悪い魔女を たいじした話
南の島へ 宝探しの冒険にでた話
雲にのって 鳥の王様に会った話

もちろん ライアは王子様ではなかったし 竜やら魔女やら そんなものは見たこともありませんでした
でも ミキがよろこんでくれたり 笑ってくれたりするのが ライアにも とてもうれしかったのです
 
「…そこで おいらが ワン! とほえてやると びっくりしたクジラは…」
とくいげに 北の海のクジラたいじしていた ライアのお話が ぴたりと止まります
いままで ずっとライアをみて うなづいてくれたり 笑ってたりしてくれていたミキが 
少しさびしそうにして 窓の外をじっとみていたのです

「ミキ どうしたの?ねむくなったの?」
ライアは たずねました
「ううん ねむくはないよ だってライアのお話 おもしろいもん」
「じゃ どうしたんだい?」
ライアは すこし顔をかしげます
「いいなぁ っておもって。 だってライアはいっぱい いろんなところへいってるんだもん」
ミキは いいました
「じゃ…じゃあ こんど冒険にいったら ミキのほしいものをとってきてやるよ?」
「何がいいかな? 宝石? それとも洋服?」
とてもさみしそうにミキがいうので なんとかなぐさめようと ライアはいいました

「いいの だってあたしの一番ほしいものは だれにも もってこれないから」
そういう ライアに ミキはくびをふっていいました

もちろん ライアには 宝石も洋服も もってくることはできません
だけど ミキにいろんなお話をしているうちに ライアはすっかり王子様きぶんに なっていたのです
この おれさまに もってこれないものはなんだ? と
ちょっぴり ふまんそうに
「じゃあ ミキの一番ほしいものって なんだい?」
と ライアはききました

「おともだち… あたしは あるけないから どこにもいけないもの」
しばらくしてから さっきよりもさらにさみしそうに ミキがうつむいていいました

そのしゅんかん ライアのむねが どきん となりました
ライアのたくさん作ったうそが ミキには うらやましいことばかりだと きづいたのです
ライアのたくさん作ったうそは ミキには できないことだと きづいたのです
そんなこともしらずに いままでとくいげに話していたと 思うと 
そんなこともしらずに ミキをさみしくさせていたと 思うと
ライアの胸は 悲しい気持ちでいっぱいになりました

「あたしの病気はね もしかすると おばあちゃんになっても あるけないかもしれない病気なんだって」
ミキは いいました
「だから 一緒にいてくれる おともだちがほしかったの」

「でもいいの 今日はライアがきてくれて お話してくれて うれしかった」
「明日からは ライアのしてくれたお話があるから きっと さみしくなんかないよ」
ミキは 少しわらっていいました

しばらくして
ずっと だまったまま うつむいていた ライアがいいました
「おいらが… おいらがミキと一緒にいるよ」

「え?だって ライアは王子様でしょ? 人助けのお仕事があるから いかなきゃ」
すこしびっくりして ミキはいいました

「あたし 宝石も洋服もいらないよ またライアがきてくれれば お話してくれれば」
「そうだ! ライアがいつきてもいいように またスープを用意しておくね」
にっこりほほえんで ミキはいいました

「いいんだ!おいらここにいるんだ!」
ライアは うつむいたまま くびをふっていいました
ライアの目からは ぽろぽろと 涙がこぼれおちました

「どうしたの おなかがすいたの?」
「ちがう ちがうんだ…」
ライアはいいました

ライアは 今までひとりぼっちで 生きてきました
人間は ライアのことをみても おいはらったり 相手にしてくれませんし
ほかの犬は なんでもおおげさに言う ライアのことを 「ほらふき犬」なんて呼んでいたのです

ミキは ライアのいうことを はじめてわかってくれました
ミキは ライアのいうことを よろこんでくれました
でも そんなミキに うそをついてしまったのと さみしいおもいをさせたのと
なによりも ひとりぼっちだったライアには ミキのやさしさが いちばんうれしかったのと
いろんな気持ちが ライアの胸には いっぱいになって
じぶんで どうしていいのか わからなくなって
とうとう ライアは 声をあげて 泣き出しました

「おいら… おはらは ほんとうは王子様じゃないし 強くもないんだ」
「いっつもウソばっかりついてて ほらふき犬っていわれてて…」
ライアは 泣きながら いいました
「ミキが よろこんでくれてるとおもったから うそのお話をいっぱいいったけど
ミキをさみしくさせるなんて… 思わなかったから」
「ごめんよ。ごめんよ。でも… でも おいら ミキとずっと一緒にいたい」
わーんと泣き出した ライアのあたまを ミキは そっとやさしくなでていいました
「ライアはね やっぱり王子様なの」
「えっ?」
とつぜんのミキのことばに ライアはびっくりしましたが
ミキはつづけて こういいました
「だって あたしのこと お話でよろこばせてくれて 一番ほしかったお友達をくれたの」
「それって立派な ミキだけの王子様だよね」
ミキは うれしそうに すこしなみだぐんでいいました
ライアもこんどは うれしくなって もういちど泣き出しました
ミキは そんなライアを いつまでも いつまでも なでていたのでした

それから少しして ミキはすこしづつ歩けるようになりました
ミキのそばには ずっとライアが一緒にいます
二人はいろんなところへいって 楽しくいっしょにあそびました

もうだれも ライアのことを 「ほらふき犬」なんて呼ばなくなくなっていました

(おしまい) 

 

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