【おさんぽ】雨の日に
雨の音が透明の傘に心地よくひびく
ぱらぱら ぱらぱら と
五月も半ばのこの季節、もうすぐ梅雨になろうかという頃、午後を少しすぎた遠くの空には晴れ間も少し出ていた。
私は昔からこんな日の雨が好きだった。
最近はゲリラ豪雨だとか、季節はずれの雷雨だとかで、今日みたいな天気雨の日も少なくなった。
小さな頃は学校からの帰り道、傘を忘れた日など私は思いっきり雨の中を遊びながら帰ったものだ。
水溜りは日の光りをうけて煌き、少し優しげな雨は体に当たると心地良い音を奏でた。
道行く野辺の花も新緑も雨粒を纏い、今の目の前の様にまぶしく輝いていた。
あれはいつだったろう。
濡れて帰った時の母の言葉に思ったものだ。
大人なんて自分も小さい頃は子供だったくせに子供の気持ちなんてわからないんだと。
なぜ雨に濡れて帰ってはいけないんだろう
歩道の縁石にのって歩いたり路肩の白い線の所だけを歩いてみたり
雨靴なのに水溜りに入るのがなんでいけないのか
顔をあげればそこら中で新緑は芽吹き、雨の露をいっぱいに溜め込んで光っているのに
こんなにたくさんの世界があるのに
道々に生えてる草花は雨粒で化粧されて、いつもの帰り道とはまったく違う顔を見せていたし葉っぱの裏では時々ミツバチやてんとう虫が雨宿りをしている
小さなカマキリや蝶々なんかもよくいた
でも一度、かたつむりを見つけて手を伸ばした紫陽花の葉の裏にものすごく大きな芋虫をみつけて驚いた事があったっけ…
甦る思い出につい顔がほころぶ。
あの時、怒った母の言葉が理解出来るようになった今でも、私はこうして傘をさして歩いている。
ぱらぱら ぱらぱら と、まだ雨は誘うように音をたてていた。
見あげると、遠くに見えていた晴れ間にはうっすらと虹がかかっている。
この先の道には何かあったっけな?
私は行く先も決まってないこの道をあの虹が消えるまでもう少し歩いてみる事にした。