あをぎりの小さなおはなし

つれづれなるままにその日暮らし…

【わんこばなし】おじいちゃんとヨーコと私(おまけでとしぞう):その1

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 私が、総司おじいちゃんと犬のヨーコ、そしてとしぞうに会ったことをお話したいと思います。

 前置きが少し長くなってしまいますが、そこはご了承ください。

 当時私は、ある地方の大学で女子大生をしていました。
 一人暮らしを始めて大学生活にも慣れ、毎日が充実していましたが、実家が片親(母のみ)で、大学進学の際も叔父に援助して頂いていたこともあり、負担をかけまいと少しだけでもアルバイトを始めることにしたのです。

 

 私は、コミュ障とはいいませんが、あまり初対面の人前に出るのは好きなほうではありません。
 サークルの友人からは、よくそれで教育学部にきたよね。と言われるほどでしたが、そこはまぁおいといて、接客関係はなるべく遠慮してアルバイトを探していると、大学の関係で募集を見つけた、動物病院のサービススタッフの文字が目にとまりました。
 実家は、父の遺してくれた一軒家でしたが、動物の飼育経験はありません。
 でも、動物はもともと好きだったので、ものは試しと履歴書を書き上げ、病院へお電話をするとその日のうちに面接に来て下さいと言われました。

 

 夕方にその病院を訪れると、やさしそうな受付の女性に「本日の午後はご予約のみですが…」と言われ、あわてて面接を受けに来たことを 伝えると、奥の応接室のような所に連れていかれました。
「先生は、診療中なので少しだけお待ちくださいね」

と言われ、かなり挙動不審に「は、はい。お待ちしてます」と言ってしまったような気がします。
 そういえば、生まれてこのかた、面接など一度も受けたことがありません。
 予約診療だけで患者さん(後から知ったのですが患畜さんと言うそうです)が少ないのか、応接室の防音がよいのか、想像していた動物の騒がしい鳴き声などは聞こえず、壁にかけられた時計の音だけがやたら響きます。
 一人きりになっても挙動不審がおさまらない私は「サークルの友人に面接の秘訣でも聞いておけばよかった」などと考えがぐるぐるし、かなり心臓もバクバクしていたと思います。
 先生がくるまでに、こっそり友人に電話をしようか?と考えていた時に、一人の男性がドアを空けて入ってきました。

 

「はっ、初めまして。このたびはお忙しいところ…」
 反射的に、新人一兵卒のように立ち上がった私。今思い返すとかなりハズカシイです。

「お電話をくれた方ですね。まぁおかけになってください」
 促されてもういちどソファーに座ると、先ほどの女性がお茶をもってきてくれました。
 私は持ってきた履歴書を差し出すと、先生は受け取り、目を通していきます。
 固まったままの私は、その光景を眺めることしか出来ませんでした。
 お年は30台後半くらい?この業界では若い?のでしょうか??
 佐藤浩市の濃い部分を減らして、眼鏡をかけたようなカンジで、終始にこやかです。
『お仕事柄、患者さんを診る先生って、みんなこんなお顔になるのかな』
 そんな事を考えていたら、緊張のためノドがカラカラなのに気付いてしまいました。
 目の前には、お茶があります。
 しかし、面接で出されたお茶っていうのは、飲んでいいものなのか飲まざるべきか…。
 先ほどの後悔が、もう一度あたまの中でぐるぐるしていると、その様子に気付いたのか。
「ああ。お茶、どうぞ召し上がってくださいね」
と言ってくださり、ここは遠慮せず、おいしくお茶をいただきました。
 さすが、言葉の話せない動物を診てらっしゃる方の洞察力はハンパではありません。恐れ入りました。

 その後は、先生の質問に私が答える形で面接は進行していったのですが、結論を先に言ってしまうと。


 落ちました。はい。玉砕レベルの不採用です。

 

 面接では、物腰も話し方も優しい先生に、緊張することもなくお話はできました。
 動物を飼ったことがないことも正直に申し上げ、実家はかなり山奥のほうなので、家の近所に度々タヌキが出没し、小学生の頃には給食で残ったパンをあげていた事など、かなり余計な話もしたくらいです。
 でも、友達の犬と仲がよかったり、動物に接する仕事がしたいという気持ちもきちんと伝えることができました。

 

 最後に先生が、やんわりと不採用になる理由について話してくれました。
 言われてそういえば…だったのですが、ウチの大学は大学院のほうに獣医学科があって、メインはそっちを募集しているのだそうです。
(動物看護師さんなんて資格もあってそちらの育成もしていると伺いました)
 また、こちらが重要だったのですが、実際の診療現場では、場合によって患畜との死に向き合わなければならないこと。
 野生動物の死ではなく、飼い主さんにとっての家族との別れに向き合わなければならないこと。
 など、私が「ぬるま湯でお砂糖とミルク」を溶いていたアルバイト思考を見事にふきとばしてくれました。

 

「でも、こうして『動物が好きだから』と応募して頂ける人がいるというのは、それだけでも嬉しいことなんですよ」

 

 自分の考えの甘さを反省していた時のその言葉に、私はなんだか救われた気分になりました。
 ホント、お医者様ってすごいなぁ。と思った一言です。

「今回、当院とはご縁がなかったのですが…。○○(地名)にお住まいなんですよね?」
「あ、はい」
 面接の話の中で、何度か住んでるアパートの場所が話題となり、そのたびに先生が何か考えこんだ表情をしていたので、少し気にはなっていましたが、何の事だかわかりません。

「不採用の代わりという訳ではないのですが…」

 この後、私はまたしばらく先生と話をすることになりました。

 

【その2へつづく】 

あかちゃんシリーズ レトリバー ぬいぐるみ

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