あをぎりの小さなおはなし

つれづれなるままにその日暮らし…

【ねこばなし】にずのこと

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 冷たい秋雨の降りしきる早朝、僕はにずとであった。

 微かな泣き声は自分を呼んでいた。

 道の真ん中で、雨に濡れそぼったまま。

 僕は傍まで行くと、まったく動かないにずを両手で包むように抱き上げた。

 小さなりんご一個分にも満たない命の重さを感じた時、僕の胸は一瞬激しく波打った。

 雨に濡れないカーポートの庇の下に置いてやると、残りの新聞を配り終えて、急いで戻った。

 にずはまだ。そこにいた。自分を見つけたように、微かな鳴き声を発して。

 

 家へ戻り、シャワーついでに洗面器風呂にいれると、汚れた水と大量の蚤が浮いてくる。

 ダンボール箱に電気アンカを入れ、プリンのカップにぬるま湯を入れておいたが、学校から帰っても何も変わっていなかった。

 学校に帰りに買った牛乳を、軽く温めタオルに浸し、口元にもっていくと、ほんの少しだけ牛乳を飲むようになった。

 牛乳をのみ終えたあとは、風呂場で蒸しタオルにして体とお尻を拭いてやる。


 
 そうしたやっと五日目、カップに入れた牛乳を、にずは初めて少しだけ舐めた。

 その日の自分は、学校へ行ってもかなり上の空だった。

 名前は、自分の名前が「ジン」だったからZINのアナグラムでNIZにしよう。

 どうでもいい授業中、そう決めた。

 

 そうして学校から帰った日、にずは、もうダンボールの中にはいなかった。

 母から聞いた。気づいた時には、もう冷たくなって死んでしまっていたのだと。

 世界中の何処を探しても見つからない場所へにずは行ってしまった。

 抜ける様な天気の良い、秋晴れの日の出来事だった。

 

 あの時、自分が学生でなかったら。

 もっと知識やお金があって力もあって、病院へ連れて行っていれば…。

 今でもそう思う事がある。

 

 道端にたむろする猫たち。

 ふと見上げた快晴の青空。

 そんな時、遥か昔の思い出が、今でも頭の中をよぎる。

 

今週のお題「ねこ」(自分の原点から)

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