あをぎりの小さなおはなし

つれづれなるままにその日暮らし…

【ねこばなし】猫を拾った。名前はまだない。

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 今日、私は猫を拾った。名前はまだない。

 冬の雨が降る寒い夜、会社帰りの道を車で走っていたら、道の真ん中に黒い猫がいた。
 スピードを出していなかったし、轢いてしまうような事もなかったが、手前で車を止め、降りてみるとまったく逃げようとする気配がない。
 うずくまったままの猫は、成猫ほと大きくなく、仔猫ほどに小さくもない。
 ガタガタと寒さで震えていたが、ケガをしているのかと触ってみても、唸ったりもせずおとなしく、首輪もない事からどうやらノラ猫らしい。
 この状況で猫を道端によせて帰るのも非常に後味が悪く、生憎の農道で雨露をしのぐ場所も見当たらない。
 小雨の中、傘もささずに約2分、車もほとんど通らない農道で、私は一人悩むことになった。


 嫁はまだ怒っている。
 拾ってしまったこともあっただろうが、猫をくるんで持って帰ったスーツがドロドロになっていたせいもあると思う。
 まだ起きていた小学2年生の娘は、猫を見るなりはしゃぎまくり、既に入っていたお風呂に私と一緒に入ろうとし、ミルクを飲んでいるのを横で笑顔で眺め、しまいには一緒に寝るといいだしたのだが、嫁の、明日も学校あるから早く寝なさい攻撃に、先ほどようやく自分の部屋へ戻った。

 当の本猫は、今はソファーの上のバスタオルの上ですやすやと寝ている。
 シャワーの際に、ケガが無いことをもう一度確認したし、ドライヤーの後、ホットミルクとチーズとカニカマをガツガツ食べていた所をみると、どうやらお腹が空いていただけのようで、少し安心した。


 私の夕食が終わっても、嫁は口を利いてくれなかった。
 私が何か言おうとしたら、お風呂入ってくるね。と、さっさと風呂場へいってしまった。
 仕方がないので、嫁の好きなアイスティーを自分の分とあわせて2杯作り、リビングへ持って行ってテレビを点けた。
 ソファーの端で、まだ寝ていた猫の頭を撫でてやると、一度目をあけてミィと鳴いた。
 目をつぶって耳を寝かせ、気持ちよさそうにしてたので、耳の裏とか喉元もくすぐってやるとゴロゴロでなくコロコロ鳴きだした。
 まだやっぱり子供なんだな。あの時、見捨てなくてよかったな。
 そんな事を考えていたら、いつの間にか風呂からあがっていた嫁が私の横に座った。

 無言でアイスティーを飲む嫁に、ごめんって言ってみたが、何が?と言われた。
 やはりアイスティー1杯ではごまかせそうにない。
 私は、明日にでも会社の人間に引き取り手がいないか探してみるし、それでもダメだったら知り合いとか友達にも聞いてみるから、それまででいいから、猫を家においてやって欲しいと口下手の私にしては、一生懸命頼んでみた。
 気が付くと、嫁は目に一杯の涙を溜めて、私の顔を見ていた。

 

「やっぱりわかってない…」
 何を言われたのかわからずあっけにとられていると、嫁は続けてこう言った。
「あなた、私がなんで怒ってるのか、わかってないの?
 私、猫好きだし。動物を拾うのが、どういう事なのかも知ってる。
 なのに拾ったあなたが、探してみるとか、それまででいいからとか…
 今のこの仔の寝顔みて、同じことが本気で言える?
 ごめんって言うくらいなら、なんで他の事とか、家で飼ってもいいか?とか言えないの?」
 嫁は私の胸に顔をうずめて、ポロポロと涙をこぼしていた。
 そういえば嫁は、小さい時に実家で猫を飼っていたんだっけ。
 付き合っていた頃の昔話を思い出した。
 思い出して、ようやく理由がわかった自分の馬鹿さ加減に少しだけへこむ。
「ごめん。さっきの言葉は全部ナシにするよ。
 おまえのことも、娘のことも愛してるし、この仔もずっと一緒で、家族だから。
 ずっと大切にする。それでいいだろ?」
「うん」
 嫁は顔を上げて言った。
「それにね。雨の中ほったらかさずに連れて帰ったあなたの事、私も大好き」
 嫁の顔に笑顔が戻った。やっと許してもらえたらしい。


「あとね」
「ん?」
 まだ何かあるのかなと思ったら、嫁が顔を近づけてこう言った。
「またごめんって言った…」
 我が家恒例、仲直りのキス。
 私は、もたれかかってくる嫁に寄り添い、どうでもいいニュース番組が流れるテレビを眺めながら、やっとほっとした。


 今日、私は猫を拾った。名前はたぶん…明日娘が考えると思う。

 

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